ENTERTAINMENT
TECHNOLOGY

「TOKYO NODE」開館記念企画第一弾!
「Syn : 身体感覚の新たな地平”」を巡る5つの問い

2023.10.6 (Fri)

TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI
PHOTO BY SHINTARO YOSHIMATSU

TOKYO NODEのオープニングを飾るのは、Rhizomatiks × ELEVENPLAYによるパフォーマンスプログラム「Syn : 身体感覚の新たな地平」(以下、「Syn」)だ。長年に渡ってコラボレーションを重ねてきたRhizomatiks × ELEVENPLAYによる本作はTOKYO NODEの空間の特徴を捉えて企画された完全新作であり、空間の魅力を最大限引き出すものとなっている。果たして本プログラムはTOKYO NODEにどんな体験を立ち上げるのか、5つの問いを通じてその謎を明らかにしていこう。

1. 「Syn」とはなにか?

英語の接頭辞でもある「Syn」というフレーズは実に多層的な意味を含んでいる。たとえば「シナプス(synapse)」「同期(synchronous)」「合成(synthesize)」「生成(synthesis)」といったSynが含まれる単語は、本作のテーマとも関わっている。情報伝達の結節点や同期化された動き、異なる要素の組み合わせは、本作の表現でもあると言えよう。

他方で、Synという発音は日本語なら「真(真実・真摯)」「深(深淵・複雑)」「振(揺れ動きや影響力)」「心(感情・思考)」、さらには英語なら「Sin(罪)」など、さまざまな意味をもつ単語と共鳴している。こうした単語たちもまた、本作の表現とつながるものだろう。

Synは「内在する感覚を再構築し、現実世界を新たな観点から探求していく」作品だという。

観客はTOKYO NODEの3つの空間を移動しながら、総勢24名のパフォーマーとともに物質世界と情報世界を往復しながら、非言語的な体験を通じて物語の中を進んでいく(パフォーマンス時間は約70分を予定)。観客は自分がいま何を見て・聞いているのか、感情を揺さぶられるような体験の連続に巻き込まれながら、視覚や聴覚といった自身がもっているすべての感覚を見つめなおすことになる。

本作の特徴は、観客がステージ上のパフォーマンスを一方的に鑑賞するのではなく、観客自身がパフォーマンスの中へ参加していくことにある。Rhizomatiks × ELEVENPLAYの前作「border 2021」では観客と演者の境界、現実と仮想空間の境界が曖昧になるようなパフォーマンスが行われたが、Synはその進化系にあたるものだと言えるだろう。近年、海外でも「イマーシブシアター」と呼ばれるような体験・参加型のパフォーマンスが注目されているが、本作はRhizomatiks × ELEVENPLAYらしいイマーシブな体験をもたらすものでもある。

RhizomatiksとELEVENPLAYだけでなく、多彩なコラボレータにも要注目だ。多くの舞台やドラマ、映画の脚本を手掛けてきたヨーロッパ企画の上田誠が本作のストーリーを執筆しており、1980年代からメディア表現の第一線で活躍してきたダムタイプの藤本隆行が照明デザインを、また、MVやCMなどの映像作品をはじめとした空間デザインを手掛ける三藤秀仁がセットデザインを担当している。本作の複雑な世界をロゴとキービジュアルへと落とし込んだのは、近年グラフィックデザインのみならずインスタレーションなど活動の幅を広げているYOSHIROTTENだ。各領域で活躍するコラボレータの協力によって、「Syn」のもたらす体験はより豊かなものになっているだろう。

3.TOKYO NODEで何が起きるのか?

GALLERY A/B/Cという、約1,500㎡にも及ぶ3つのギャラリーをフル活用した本作は、異なる世界観をドラスティックに立ち上げている。たとえば、パフォーマンスのプロローグでは近未来的な研究施設のような空間が広がっており、どこか不穏なムードが漂っている。そこで観客が自身を撮影すると、そのデータがギャラリー内で映し出されることもある。観客自身の存在が空間にも伝播し、己の意思に反し別の存在として暴走しはじめるのだ。

 

現代はテクノロジーが発展している一方で、さまざまなデータが人々の預かり知らぬままに使われてしまうような状態でもある。AIやインターネットはただ人々の生活を便利にするだけではなく、ときに生活を脅かすリスクにもなりうるのかもしれない。「Syn」の物語はこうしたディストピア的な世界から離れ、今一度ゼロから身体や認識、感覚を取り戻すために進んでいくものだ。

続くメインの空間では、全長60メートルにも及ぶ広大な空間をフル活用したパフォーマンスが展開されていく。巨大なインスタレーションが立ち並ぶ空間全面に映像がプロジェクションされ、同時にELEVENPLAYのダンサーらによるパフォーマンスも進行する。ここでは、観客の目の前に立ちはだかる高さ4メートル×横幅8メートルの巨大な「壁」が観客に威圧感を生み出している。

しかし、目の前の巨大な壁が徐々に動き出すにつれ、観客は空間そのものが伸び縮みしていくことに驚かされることになるだろう。さらにはロボティクスによって制御されたいくつもの壁が登場し、ダンサーらと息を合わせるようにして動き出していく。光と影、リズム、メロディ――3Dグラスを通した立体的な映像やそれと協調するようなダンサーの動きはもちろんのこと、目の前に存在するものすべてがが有機的に動いていくことで観客は混沌とした世界の中に引きずり込まれ、自身の前に広がる光景のダイナミクスに我が目を疑うはずだ。

エピローグでは、再び舞台が変わり、どこか神聖な雰囲気が漂う空間が広がっている。ここで観客は、MRヘッドセットを使いながら現実と仮想空間を行き来するような鑑賞体験を味わうことになるだろう。ドーム型の天井や60メートルというストロークなど、TOKYO NODEの特徴的な空間を存分に活かした本作は、まさにTOKYO NODEのオープニングにふさわしい作品だと言える。

4.どんなテクノロジーが使われているのか?

これまでもRhizomatiks × ELEVENPLAYのパフォーマンスではさまざまなテクノロジーが活用されてきた。現在注目されているような生成AIはもちろんのこと、VR/AR、ロボティクス、ドローン、プロジェクションマッピングなど、真鍋大度と石橋素が率いるRhizomatiksは常に各時代のテクノロジーを取り入れながら新たな表現を模索してきたと言える。

もちろん、「Syn」においても多種多様なテクノロジーが使われていることは言うまでもない。「生成」を意味する「synthesis」にもsynの接頭辞がつくように、生成AIもまた本作の重要なテーマのひとつであり、AIと人間、AIと社会の関係性を想起させるような演出も盛り込まれている。

本作の構想にあたって、Rhizomatiksを中心としたチームが視覚や聴覚、触覚をはじめとする人間の五感を問いなおすために数多くの実験を行ってきたことが明らかにされており、実際のパフォーマンスにおいてもMRやロボティクスなどの技術を使いながら私たちの感覚そのものが揺らいでいくことになるはずだ。



もはやクリエイティブの制作においてPhotoshopやIllustratorなどのビジュアル編集ツールを使っていることがアピールにはならないように、Rhizomatiks × ELEVENPLAYのパフォーマンスにおいてもAIやMRはツールであって目的ではないのだろう。

5.「Syn」は何を提示しているのか?

今回のパフォーマンスは、人間の感覚を再び捉えなおしながら、人間とAIの類似と差異を提示するものでもある。

たとえば人間の赤ちゃんはまず、視覚的な刺激を通じて基本的な色や形を認識しはじめ、基礎的な認識能力を身につけてから顔の特徴や身の回りのモノを識別できるようになるだろう。これはAIの学習プロセスと相似形を描いてもいる。AIも単純な色や形を認識することから始まり、学習とアルゴリズムの進化によって複雑なパターンや言語を認識できるようになるからだ。

本作がもたらす体験は、ダンスパフォーマンスを通じてこうした学習の過程を辿りなおすものでもあるだろう。シンプルな光と影から、リズム、そしてメロディへ。観客は多彩な映像にも覆われながら、徐々に複雑な表現を体験することになっていく。

もっとも、学習の過程が似ているからといって人間とAIが等しいわけではない。感情や意識の有無をはじめ、そこには大きな差異があることも事実だ。AIとの共生が前提となるなかで、身体をもつ人間の価値はどこにあるのか。「Syn」は観客の内なる感性に直接問いかけている。

2023.12.12 緊急時のお知らせ

緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ

2023.12.12 緊急時のお知らせ

緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ緊急時のお知らせ