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虎ノ門の“顔”となる時計台をめざして
――「TORANOMON HILLS CLOCK」制作の裏側に迫る

2023.11.30 (Thu)

東京メトロ・虎ノ門ヒルズ駅の改札口を出てすぐ目の前に広がる、高さ2メートル超、幅約17メートルの巨大なデジタルサイネージ。東京メトロと森ビルによる駅まち一体事業によって実現したこのサイネージを使い、TOKYO NODEのヴィジュアルアイデンティティを手掛けたデザイナーの中村勇吾は超巨大な「時計」を生み出した。なぜ巨大なサイネージを使った時計が生まれたのか、TOKYO NODEとの連動はどのように図られたのか――「TORANOMON HILLS CLOCK」を手掛けた中村とバスキュールの朴正義、TOKYO NODE館内のサイネージを手掛けたバスキュールの馬場鑑平の3人が制作の裏側を語る。

TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI
PHOTO BY SHINTARO YOSHIMATSU

サイネージを街のシンボルに変える

――「TORANOMON HILLS CLOCK」は虎ノ門ヒルズ駅の巨大なサイネージを使って大きな時計を生み出しています。これはどういうきっかけでつくられたものなんでしょうか。

 

朴正義(以下、朴):虎ノ門ヒルズステーションタワーの開業にあたって、TOKYO NODEだけでなく虎ノ門ヒルズの演出として駅前のサイネージを使った企画を考えられないかと森ビルさんからご相談をいただいたんです。当初は開業時に表示されるものとそれ以降日常的に表示されるもの、2種類のコンテンツをつくることになっていました。しかし、議論するなかで、コンテンツをつくりわけるのではなく巨大なサイネージを使って虎ノ門の街開きにふさわしいものをつくりつつ、普段は待ち合わせ場所のように機能するものをつくるのがいいのではないかと話していくようになりました。

毎時0分が近づくと、改札口前のサイネージが一斉に変化する。

――最初はサイネージの使い方から考えていたわけですね。

 

朴:単に映像をディレクションするのではなく、虎ノ門の街全体をどう見せるか考えながらこのサイネージの役割を考えていました。ひとくちに「映像」といっても完成させたものを再生する場合もあればプログラムによって生成するものもあるし、街のデータをビジュアライズすることもできる。あるいはサイネージの仕様上、今後は広告も入ってくるため、さまざまな使われ方に対応できるものでなければいけません。

中村勇吾(以下、中村):提案の段階から、ぼくが過去に手掛けたサイネージの資料も入れてくれていましたね。

朴:勇吾さんが過去につくられていた時計は、サイネージとしてきちんと機能していると思っていたんです。単に大量のサイネージを使って映像を流せば街の人がシェアしてくれるわけではないし、そのうち誰も見なくなってしまうこともある。時計なら、虎ノ門ヒルズを冠した新駅の“顔”としてしっかりした存在感と耐久性がありながら、いろいろな状況に対応できる柔軟性もあると思いました。そこで、街のシンボルとなる巨大な時計をつくることになったんです。森ビルさんとの議論のなかでは、「TOKYO NODEのロゴをつくったクリエイターとしての中村勇吾ではなく、永久機関をデザインできるクリエイターとしての中村勇吾と一緒につくりたい」と言って勇吾さんをプッシュしましたね(笑)。

バスキュール代表の朴正義は、TOKYO NODEやTOKYO NODE LABに閉じず虎ノ門の街へ広がるような取り組みを広げようとしている。

中村:言い方がうまいですね……プログラムをつくればある意味なんでも“永久機関”と言えそうだけど(笑)。その後朴さんから虎ノ門ヒルズの取り組みやデジタルツインの構想についてお話を伺いながら考えていくなかで、すごくシンプルなものをつくろうという結論に達しました。17メートルのサイネージを使うとなれば今後すごく気合の入った広告がたくさん出てくると思うんですが、同じようなテンションでぶつかると“頑張ってる”感が強くなってしまう気がして。だったらシンプルな方がいいんじゃないか、と。

朴:ものすごい横長のサイネージなので、時計をつくろうとすると選択肢が限られてしまうんですよね。もちろんデータをビジュアライズして複雑な表現をつくることもできたのですが、駅という場所の特性上、分かりやすいものでなければいけない。その点、デジタル時計はシンプルだしわかりやすい。六本木ヒルズにはデジタルカウンターを使った宮島達男さんの作品《Counter Void》が展示されていますし、そういう意味でもデジタル時計は虎ノ門ヒルズらしくていいんじゃないかと思いました。ぼくらは「TRANOMON HILLS CLOCK」をつくるんだ、と。

中村:ミシェル・ゴンドリーがつくったThe Chemical Brothers「Star Guitar」のMVのように街の風景の動きと時刻をリンクさせるとか、デジタルツインを使って虎ノ門の街の中を自由に動きながら街なかの数字を映し出していくとか、いろいろアイデアはありましたが、結局シンプルな表現に落ち着きましたよね。

インターフェースデザイナーの中村勇吾は、これまでもサイネージを使ったさまざまな表現に携わってきた。

シンプルだからこそ生まれる柔軟性

――毎時0分には虎ノ門の街を映した空撮映像が流れますね。周囲のサイネージも一斉に変わるので、その場の空気が入れ替わったような感覚を覚えます。

 

朴:時報のようなイベントってすごく大事ですよね。まずは虎ノ門という都市の情景を切り取った映像を流すのがいいと思って、現在は昼に撮影された映像を流しています。ただ、今後は朝・夕方・夜など時間帯に応じて流す映像も変えていく予定ですし、クリスマスやハロウィン、お正月など、時期によって映像をアップデートしてみるのも面白そうだなと思っています。

中村:映像やデジタルとなるとついいろいろな表現を詰め込んだ幕の内弁当みたいなものが生まれがちなんですが、シンプルで強い表現にまとめていけたのがよかったですね。森ビルさんと話すなかでも、街の名所をつくるというアイデアに納得いただけていましたし、むしろきちんと時計台として機能するよう、可読性については森ビルさんともかなり調整を行ったことを覚えています。これまでに何度かパブリックな場所にデジタル時計をつくったことがあるんですが、今回はシンプルさを保つことで強度のある時計をつくれた気がしています。

朴:勇吾さんがつくったベースがあるからこそ、今後いろいろな展開を広げられるのが楽しみです。

中村:待ち合わせスポットになるといいですよね。

毎時0分が近づくと、サイネージが一面デジタル時計に変わる。

0分まで残り1分を切ると、周囲のサイネージも同期しながらモーショングラフィックスが流れはじめる。

0分を迎えると空撮の映像へと切り替わり、虎ノ門の情景が映し出される。

現在、平時は現在虎ノ門ヒルズステーションタワーやTOKYO NODEの広告が流されている。

サイネージに囲まれたTOKYO NODEという空間

――他方で、馬場さんは中村さんがつくられたヴィジュアルアイデンティティをTOKYO NODE館内へ展開させていったわけですよね。どんな考え方でサイネージの整備を進めていったんでしょうか。

 

馬場鑑平(以下、馬場):最初は誘導サインの機能をもったサイネージをつくりたいと森ビルさんから相談をいただいていました。勇吾さんのモーションロゴもできあがるなかで、TOKYO NODEの世界観を保ちつつ迷わないようにするようなサイネージの使い方ができるのではないか、と。とくに45Fにはたくさんサイネージがあるんですが、柱ごとに誘導の方向も変わるので意外と複雑なんですよね。

中村:めちゃくちゃいっぱいつくってもらいましたよね。

馬場:モーションロゴの展開についてもさまざまなバリエーションを出していました。ロゴの動きの原理原則は勇吾さんがつくっているので、そのコンセプトを踏襲しながら縦長や横長などさまざまな矩形に合わせて調整していましたね。実際につくってみると、想像以上に建築空間の中におけるサイネージって強く見えるものなんだなと驚きました。

バスキュールのクリエイティブディレクター、馬場鑑平も朴と同じくプロジェクト初期からTOKYO NODEに関わってきた。

――TOKYO NODEって館内のサイネージも多いし、しかも大型のものから極端な横長、縦長など、さまざまな場所のサイネージがある種TOKYO NODEらしさにもなっている気がします。

 

馬場:特に45Fはサイネージが空間の印象にもつながっていますし、このロゴも黒と白だけの強いクリエイティブなので、TOKYO NODEを印象づけるものになったと思います。耐久性のあるものにもなったな、と。

朴:サイネージをがんばる施設ってあまりないかもしれないですね。どうしても制作行程のなかでも終わりの方なので適当に済まされがちというか。

中村:ぼくも自分のロゴがこんなに施設中で展開されるケースは少ないので印象的でした。すごく責任重大でもありますし、きちんと考え方から設計しておいてよかったなと。

サイネージの展開にあたってはさまざまなバリエーションに合わせて映像が調整された。

45Fのフロアでは、大きなサイネージが存在感を放っている。

45Fの柱一つひとつにサイネージが設置されている

展示内容によっては柱ごとに誘導の方向も変える必要があるという。

馬場:動きの面ではどうすればもっと滑らかに見えるのか、かなり勇吾さんとやりとりしましたよね。たとえば30FPSのモニターに合わせて30FPSの映像をつくっていたけど、本来は60FPSくらいで滑らかに動くのがいいと言われて、30FPSの映像を60FPSっぽく見せるやり方に変えたり……大変でした(笑)。

中村:映像機器選定には携われていなかったので、与えられた環境の中で最大限できることを、馬場さんに提案して実現に近づけるのがぼくの仕事でした。

馬場:でもその甲斐あって「TORANOMON HILLS CLOCK」と同じく耐久性の高いものがつくれたと思っていますし、館内で流れるロゴムービーなどもTOKYO NODEのシンボルとしてみなさんに注目してもらえたらと思っています。

2023.12.12 緊急時のお知らせ

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