「TOKYO NODE : OPEN LAB」(以下、OPEN LAB)の空間や設備、テクノロジーに着目した「ハード」編のレポートに続き、今回はTOKYO NODEから生まれる表現やコンテンツを「ソフト」と捉えて2日間のセッションを振り返ってみよう。TOKYO NODEが有する都市とつながるホールや広大なギャラリー、リアルとデジタルをつなぐプラットフォームは、どのようにクリエイターの創造性を加速させるのだろうか。


虎ノ門に生まれる次世代のクリエイティブエコシステム
「TOKYO NODE : OPEN LAB」レポート(ソフト編)
PHOTO BY SHINTARO YOSHIMATSU
10月10日・11日に行われたTOKYO NODE初のカンファレンスイベント「TOKYO NODE : OPEN LAB」。計17のセッションを通じてTOKYO NODEの可能性を提示した本カンファレンスを「ハード」と「ソフト」という観点から振り返ってみよう。後編となる「ソフト」編では、クリエイターにとってこの施設がどんな場所となるのか、今後この場所でどのような体験や表現が生まれてくるのか明らかにする。
Rhizomatiks×ELEVENPLAY「 Syn : 身体感覚の新たな地平」は11月12日(日)まで毎日上演されている。
この場でしか生まれない体験をつくる
TOKYO NODEから生まれる表現を考えるうえで、3つのギャラリースペースを無視することはできない。1日目のセッション「TOKYO NODE 開館記念企画 “Syn : 身体感覚の新たな地平”にみる体験型芸術の可能性」は、現在3つのギャラリーを使って開催されている開館記念企画を振り返るものだ。演出振付家のMIKIKO、Rhizomatiksの石橋素、森ビルの杉山央が登壇し、同じくRhizomatiksの真鍋大度がオンラインからセッションへ参加した。
今回Rhizomatiks×ELEVENPLAYは、広さも特徴も異なる3つのギャラリーを最大限に活用した体験をつくったことで知られている。「かなりのスペースをもつ空間のなかで3つのスペースそれぞれの体験を構築していくことが最大の課題でした」と真鍋が振り返るように、TOKYO NODEの空間がもつ独自性はときにクリエイターへの挑戦にもなるようだ。
結果として今回生まれた体験型プログラムは、ダンサーや舞台美術、照明などさまざまな動きが緻密にシンクロしながら複数のパフォーマンスを3つのギャラリーで展開させるものとなった。MIKIKOは今回の企画にあたって世界中のイマーシブパフォーマンスを研究し、いま東京だからこそできる表現にトライしたかったと語る。
「この数年コロナ禍でパフォーマンスはさまざまな制約を受けていたからこそ、画面ではなく現場でしか味わえない感触や温度、空気など目に見えないものを感じてもらえる体験をつくりたかったんです」
TOKYO NODEはコロナ禍を経て物理的な施設やオフィスの価値が問い直されるなかで生まれたものでもある。だからこそ、この場でしか生まれない独自の体験が集まっていくのかもしれない。
加速するクリエイターの創造性
さらに2日目のセッション「蜷川実花の挑戦 ‐空間に広がり、身体・五感で感じる没入型芸術‐」には、12月5日からギャラリーで大規模展をスタートする写真家の蜷川実花と慶応義塾大学の宮田裕章、森ビルの桑名功と杉山が登壇した。
今回行われる展示は蜷川個人ではなく、本セッションの登壇者をコアメンバーとするクリエイティブチーム「EiM」によるもの。宮田や桑名、杉山など異なる専門性をもつメンバーが集ったことで、これまでにない空間型の体験展示が行われる予定であり、3つのギャラリー全面を使って10以上の展示空間がつくられるという。

TOKYO NODE 開館記念企画「蜷川実花展 : Eternity in a Moment」は、2023年12月5日(火)から2024年2月25日(日)まで開催される。
「個人ではとても太刀打ちできない場所ですよね。展示の経験値はたくさんあるのですが、TOKYO NODEはまったく未知の箱。新たな体験を求められていると感じました」そう蜷川が語るとおり、10以上の空間は一つひとつが通常のギャラリーで行われる展示と同じクオリティを誇るものであり、蜷川がこれまで手掛けてきたさまざまな表現が詰め込まれていると言える。真鍋や蜷川が語るように、クリエイターにとってTOKYO NODEとは決して“簡単”な施設ではないのかもしれない。しかし、だからこそこれまでにない表現が生まれる可能性を秘めてもいる。TOKYO NODEの空間が、クリエイターの創造性を加速させるのだろう。

12月からの展示を手掛けるクリエイティブチーム「EiM」。(写真右より、杉山央、蜷川実花、宮田裕章、桑名功)
この場でしか生まれない体験をつくる
表現の場は、ホールやギャラリーだけではない。2日目最初のセッション「エンターテイメントの舞台は都市空間へ -大阪・関西万博のプロデューサーが語る-」は、クリエイティブディレクターの小橋賢児が森ビルの杉山とともに都市へ表現の場が広がる可能性を論じた。
屋外フェス「ULTRA JAPAN」や未来型花火エンターテイメント「STAR ISLAND」など都市をフィールドに大規模なイベントを数多く手掛けてきた小橋は、アートがただ見るものから没入していくものに変わってきたと語る。だからこそ、今後はさらに「体験」の価値が高まっていくとはずだと続ける。
2023年1月にシンガポールのマリーナベイで行われた「STAR ISLAND」では数百台のドローンも活用されたという。
「イベントは非日常的な体験を通じて日常の見え方を変え、別の世界の可能性を感じさせるものだと思っています。それはすべて、人間のイマジネーションから生まれるものでもある。エンターテインメントの場は、都市全体へとこれから広がっていくんじゃないでしょうか」

小橋賢児はイベントを通じて日常の見え方を変えたいと語った。
加速するクリエイターの創造性
日本テレビの番組『SENSORS』の公開収録として行われた2日目のセッション「エンタメが繋ぐ、都市と人々の新しい絆」は、クリエイターの表現がTOKYO NODEを超えて虎ノ門の街へ広がる可能性を示している。
本セッションにはゲストとしてアソビシステムの中川悠介とSCRAPのきださおり、ノーミーツの広屋佑規が招聘され、TOKYO NODEからはバスキュールの朴正義と森ビルの杉山が参加。HEART CATCHの西村真里子によるモデレーションのもと、ブレインストーミングを行うようにしながらそれぞれがアイデアを提示していった。
アソビシステムとSCRAPとノーミーツ、それぞれ専門領域は異なるが、デジタルな仕掛けを使いながらリアルな空間や土地を活かした体験を生み出している点は共通している。そんなメンバーが集まると、虎ノ門でいったい何が起きていくのだろうか? 「ドラマ『虎ノ門ラブストーリー』をつくって虎ノ門に人が集まる仕掛けをつくろう」「リアルと配信で解釈が変わってしまうような作品を虎ノ門でつくりたい」など、登壇者からは次々と刺激的なアイデアが飛び出してくる。ボリュメトリックビデオ撮影スタジオやARアプリ、デジタルツインなどTOKYO NODEにさまざまなツールがあることで、人と都市の関係性を変えていくしまうような体験が今後生まれてくるのかもしれない。
本セッションの模様は10月19日に『SENSORS』で放送された。
メディアと育てるクリエイターコミュニティ
本セッションが示唆しているように、新しい表現を生み出すためには、新しいクリエイターが集まらなければいけないだろう。実は、すでにTOKYO NODEのまわりには豊かなクリエイターコミュニティが形成されつつあるようだ。
OPEN LABの2日間を通して『BRUTUS』や『WIRED』、『Forbes JAPAN』といったメディアが行ったセッションは、そんなコミュニティの可能性を感じさせるものだ。3つのメディアによる計4つのセッションは、各メディアの魅力を伝えるものでもあった。
たとえば『BRUTUS』なら編集長の田島朗がミュージシャンの江崎文武や怪談師の夜馬裕とともに登壇し、いま注目すべきカルチャーについて語ったかと思えば、別のセッションではフローリストの越智康貴とともにクリエイターがオンラインコミュニティを活用する可能性を説く。
さらに『WIRED』は編集長の松島倫明がPOSTSの梶谷健人とともに生成AIの最先端を紹介し、『Forbes JAPAN』は編集長の谷本有香が京都大学の本多正俊志と前述の江崎とともに、ビジネスやイノベーションの視点も交えながら虎ノ門が成長していく可能性を論じた。
3つのメディアは、すべてTOKYO NODE LABメンバーでもある。今後もラボを舞台にカルチャーやビジネスなど領域を問わず豊かなコミュニティが育っていくはずだ。
教育を通じたクリエイティブエコシステムの醸成
すでに活躍しているクリエイターが集まるだけではなく、TOKYO NODEは未来を担うクリエイターが育つ場にもなっていくようだ。2日目のセッション「映像からXR領域まで、未来のクリエイターを生み出せ!」では、日本テレビの加藤友規と藤井彩人、Vookの岡本俊太郎が3人が集まり、クリエイターの育成を論じるもの。
「映像クリエイターを無敵にする。」をミッションに掲げるVookは、映像クリエイターのために制作ナレッジ共有サービスやスクール事業を展開している。今後XR人材の重要性はますます高まっていくため、TOKYO NODEを拠点にXRクリエイターのための教育プログラムを実施していく予定だと岡本は語る。
「クリエイティブな人が集まる場所ってあまりないので、TOKYO NODEがつくる人が集まる場所になっていくことを期待しています」
仮に多くのクリエイターが集まる場をつくったとしても、ただ彼/彼女らの作品を展示するだけではただのイベント会場になってしまう恐れもある。クリエイターや企業をつないだコミュニティをつくること、そして新たに生まれる才能を支援すること――TOKYO NODEがめざしているのは、持続的なクリエイティブエコシステムづくりでもあるのだろう。

4〜5年前に落合が書いたミッションステートメントは、むしろいまこそリアルなものに感じられる。
普遍的な人間と都市の価値を求めて
実のところ、こうしたTOKYO NODEの姿勢は、構想当初からブレていなかったようだ。2日間のフィナーレを飾るセッション「AIと都市の未来」では、メディアアーティストの落合陽一とTHE GUILDの深津貴之、日本テレビの森圭介、森ビルの杉山が集まり、生成AIの研究動向やそれぞれの取り組みを紹介しながら、改めてTOKYO NODEの価値を問いなおしていった。実は構想段階からTOKYO NODEに関わっていた落合は、4〜5年前に書いたというミッションステートメントを紹介してみせる。
「都市の未来を模索し、文化と科学技術の接点において、未踏の体験価値を追求し、持続可能なエコシステムを構築する。これが最初の会議のときにぼくが書いたミッションステートメントです。」
さらに当時の落合は、その実現のためにやるべきことをリストアップしていた。「都市の未来・体験の未来の追求と探求」「プロトピアの樹立(プロトタイピングが続くような楽園)」「未踏の体験価値を追い求めるコミュニティを醸成する」「アートと文化の追求、ここにしかない価値の樹立」……どれもまさにいまTOKYO NODEが取り組んでいることと重なるだろう。
本セッションでは、深津が制作したプレゼンテーション生成AIのムービーも披露された。落合や深津は先端的な生成AIの事例やその普及に伴う社会の変化について語りつつ、他方で体験がもつ価値は今後も続いていく可能性を示唆する。「技術と文化の結束点となる美しい体験がこの都市に根付くといいし、そこから新しいクリエイターが出てこれるよう自分も貢献していきたいと思っています」と言って落合はセッションを締めくくった。
TOKYO NODEで展開される表現は一見先端的なテクノロジーに注力しているように思えるかもしれないが、真に重要なのは、それらが普遍的な人間や都市の価値にフォーカスしていることだろう。AIをはじめさまざまなテクノロジーの発展によって社会が目まぐるしく移り変わっているからこそ、TOKYO NODEからはより根源的な表現が生まれていくのかもしれない。


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