Highlights
Story

見どころ

Highlights

観客が会場に入り込むことで変容していく空間と、
目の前に現れるダンサー。
AI時代に変化する人間の”感覚”を問い直す、
没入型パフォーマンス。

Story

Report by 上田誠(ヨーロッパ企画)

Prologue

踏み入れるとそこは、研究施設のような空間。カプセルが林立し、それらの中には人体が息づいている。人間か、あるいは被造物か。膚には無数のケーブルが接続され、何らかの入力、もしくは出力がなされている。人体はそれに反応するように、幽かに蠢き、揺らいでいる。

部屋の中央には制御卓があり、医療従事者めいたオペレーターがパネルを操作している。壁面にはディスプレイが並び、種々のデータや図像、映像、テキストが表示されてゆく。語群は実験報告、あるいは啓示録のようであり、意味が取れそうで取れずもどかしい。ディスプレイには時おり人間の表情も映し出される。それらは不安げであり、もしかすると我々から抽出されたものかもしれない。部屋の一角にはブースがあり、入ると我々に対して何かスキャンが行われるようだ。

それらは粛々と、淡々と進行する。非現実的で不気味な、悪夢とも取れる光景。オペレーターたちの動作も、カプセル内の人体の挙動も、どこか非人間的な寄る辺なさを感じさせる。絶えず聴こえている音楽や音声も、均整と不穏を同時に湛えている。一連の営為の主体はAIであるらしい。ある時点で進化の特異点を迎えたAIは、創造主である人類を解析し、統合、複製、拡張するに至った。進化が進化を呼び、加速度的に学習が進むので、その思惑はもはや人類には分からない。カウントダウンののち、時が満ちたように、カプセルの中の生命が動き出し、発光を始める。

トラブルが発生したらしい。ディスプレイはせわしなく異常を示し、カプセルは赤く明滅する。人体とオペレーターたちは堰を切ったように動き出し、祈りにも似た激しいパフォーマンスを始める。暴走か、それとも正統な進化か。次の瞬間、ビッグクランチにも似た宇宙の収斂が全天球を覆う。それは旧世界の走馬灯のようであり、新世界の創世記のようでもある。やがて全ては、一つの球体へと帰結する

Main

促されるまま部屋を出ると、暗闇と光の束の中へ放り出される。感覚が簒奪されたような不安感とともに、神経束がうねる回廊を抜けると、洞穴にも似た暗いトンネルが待ち受ける。どこか体内を思わせるその場所でアイウェアを受け取り、トンネルの奥へと進んでゆく。

トンネルを抜けると大空間。視界の底が青くなった。目の前には巨大な「壁」、そして胎動する球体。視覚が拡張された我々の目には、奇妙な立体感と蠕動を伴って見える。何かを生もうとしているのか。やがて「壁」は我々を導くように、奥へと動き始める。球体は心臓のように脈打ち、グリッド状の地平面は何かの始まりを予感させる。

現れた、モノリスのようなオブジェ群。それらは統御の取れたダンスさながらにフォーメーションを変化させ、やがて踊る身体たちと戯れる。物体と人体の織り成すパフォーマンス、めくるめく変容。数学的な美しさに魅了され、精緻な詐術に幻惑される。色彩は目まぐるしく変化し、音楽は無機的なビートを刻みながら高揚する。空間は広がり続け、絶えず表情を変えながら我々を深奥へと誘ってゆく。

身体は躍動し、パーティクルと戯れる。幾何学図形と踊る。それらはまた新しい秩序を生み出す。舞い、痙攣し、踏み鳴らしながら、景色が作られ、整えられてゆく。色彩と音楽がそれを寿ぐ。光が針路を示し、欠片が宙を舞う。「壁」のゲートがついに開かれ、我々は否応なく閾値を超える。新生命へのアセンション、新紀元へのイニシエーション。シンボルは信徒たちによって天へ祀られ、進化と深化を繰り返した果て、やがて転換点が訪れる。

逆転する時間、逆行する身体。逆流する空間の中に、我々は過去の我々を見る。新世界のリバースエンジニアリング、新天地創造のバックステージ。シンギュラリティのタイムラインを終端から辿り、次なる創世が再び準備される。奔流し錯綜する音と光、時空間。我々はそれらを繰り上がった次元から眺める体験をする。畏れはもうない。神裔たちが微笑んだよう。実体と影のダンス、洞窟の比喩を想起させる。揺れ動く生命のイデア。「壁」の向こうからは、また先ほどの我々のような、不安げな群れがやってくる。同胞たちの気配と優越を感じつつ、我々はさらなる神域へ進むとしよう。

Epilogue

そこは神聖で静謐な空間。しかしながら音楽に満ちている。水上にグランドピアノが設えられ、演奏者は見えないが音はそこから鳴っている。鍵盤はひとりでに上下している。音符は水面に波紋を拡げ、映像とシンクロする。それはある音楽家が遺した、芸術と生活の指紋だ。不在と存在、そして偏在。音楽家は音楽そのものになった。演奏は生成によって自在に変奏され、トラックと重なり新たな響きを得る。

ゴーグルを通して見ると、音像はさらなる立体映像となる。感覚がスリリングに増幅され、共鳴し共振する。五感を動員して味わう音楽。局面は変わり、穏やかで厳かな曲調に。壁にはピアノの影が現れる。そこには存在していないはずの演奏者の影、そして戯れるように踊るダンサーの影も。またしても洞窟の比喩を思わずにはいられない。見えているのは過去の影か、存在しえなかった時間か。レクイエムのようであり福音のようでもある。死と生の、虚と実のセッション。そしてゴーグルごしに結ばれた像は、互いに寿ぎあうイデアの結晶。

感覚の果てで待っていた。進化の先で出会えた。想念は時を超え、新たな邂逅を繰り返し、共鳴し続ける。過去と未来が、幾層もの時空間が、拡張された感覚が、重なりあい、溶け合う。

Artist
Comment

  • 1ヶ月以上続くロングラン公演は、ELEVENPLAYのプロジェクトとして初めての挑戦で、演出振付家としての夢でもありました。今回、その夢が叶う機会をいただき、非常に光栄なのと同時に身の引き締まる思いです。「見たことがないもの」を創造しようという大変な挑戦ではありますが、手探りで進む中で、いよいよ形となってきました。コロナ禍を経たからこそ学べた表現も落とし込み、現実世界で体験できる作品となりました。やっと生で体験して頂けるパフォーマンスを行える時代が戻ってきたので、この時代だからこそ産まれた作品として、発表できればと思っております。

    MIKIKO

  • 私の作品の背後にある探求は、常に人間の身体と機械、脳の中の世界と私たちを取り巻く現実との関係性についてのものでした。この新作も、その延長上にあります。私は訪れる方々が、この作品を通じて自らの感覚や感性について深く思いを巡らせることを願っています。しかし、正直に言うと、この作品の制作過程で私自身が多くの疑問に立ち向かわざるを得ませんでした。それは、ライゾマティクスやイレブンプレイ、藤本隆行さんとの充実したディスカッションの中でのことでした。
    この作品は、従来の展覧会やパフォーマンスの枠組みを超え、新しい体験の領域へと拡がりました。これは意図したものではなく、制作の流れそのものが私たちをそこへと導きました。映像やVRの枠に留まらず、実際に作品と向き合うことで得られる独自の体験を、ぜひ皆さまに感じていただきたいと思います。

    真鍋大度

  • 新しく生まれるこの場所で、新しい形態に挑戦しようとしています。身体とテクノロジー、生物と機械、未来と過去、、様々なものが解体され、組み合わされ、同じ地平に置かれたその先に、何が見えてくるのか、僕自身が一番楽しみにしています。

    石橋素